今 なおさらにこの一枚

今 なおさらにこの一枚
子供のころから運動は苦手だが 短歌や古典文学は好きで冒頭の部分は諳んじている作品も結構ある。
特筆できるようなことは何一つなく資産や名声もない平凡な家庭であったが 父が読書家で家の中に本棚が七架もあり書籍に関してだけは不自由すること無く育った。
母も文学好きで歌の意味や掛け言葉など子供の私にも噛み砕くようによく教えてくれた。

最も深く記憶しているのは 太田道灌(おおたどうかん)の話だ。
若き日の道灌が急の雨に困り 近くの人家を訪ね (蓑みのを貸してほしい)と所望した。 家の奥から出てきた家人は 手にした山吹の一枝を差し出して戸を閉めた。 
道灌はその意味を解釈できず家人を わけのわからない不親切な人だと思った。

 後年それは***七重八重花は咲けども山吹の実の一つだになきぞかなしき***の古歌からきていることを知った。 花は咲くけれど実を結ぶことのない山吹の(実のない)と(蓑無い)をかけたものだと教えてくれた。そして無学を恥じた道灌は歌道を志す契機となったなどとも母は教えてくれた。
小学生のころから知っていたことを中学校に入ってから古典の時間に習うようになり 古典の時間が楽しみだった。

中学時代は百人一首のサークルに入りますます古典の世界に魅かれていった。
皆それぞれに好きな歌 得意なとり札があり 私は源実朝(みなもとのさねとも)のうたがお気に入りで必ず自分のとり札と決めていた。

***世の中は常にもがもななぎさ漕ぐ あまの小舟の綱手かなしも*** この一枚だ。 
(穏やかに広がる大海原を ゆったりと漁師の小舟が漂うこの風景がいつまでも変わらずにいてほしいものだ)
世の中は常に変わらず 伸びやかに穏やかに 常住不変であってほしいと だれしもが希(ねが)い思うものだからだ。心が平(ひららかに)になり 小さな幸せがずっと続きますようにとの 祈りが感じられて好きだった。


一滴一滴しずくとして滴る(したたる)のも水 方円の器(ほうえんのうつわ)に従うのも水 穏やかに凪いだ時はあんなに人を優しくいやしてくれる海が 突如沢山の同胞を飲み込み 国難とも言える大惨事。


穏やかであってほしい 常に変わらずにあってほしいと願い続ける思いは届かなかった。 
やり場のない悔しさで一杯である。

思えば800年前 この歌に自らの思いを託した実朝もその願いは届く事はなかった。

常住不変を叶えることのできない人間の非力が口惜しい。
一人でも多くの方の救出と 亡くなられた方々のご冥福を心からお祈り申し上げます。


最後までお読み下さって有難うございます。
毎週火曜日に更新しています。次回は三月二十二日です。どうぞご覧くださいませ。

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「品格」ということ

こんにちは。

被災された皆様には心からお見舞い申し上げます。
また一日も早い復興を願っております。


余震怖さにめずらしくTVを点けっぱなしにしておきました。

何処からか救助されたお婆さんが消防団員の方におぶられて避難所に到着。
下に降ろされると両手を前に重ね腰から体を折り
「有難うございました」とお礼を言ってらっしゃいました。
この過酷な状況の中でのとても優雅なお辞儀と言葉。
ああ、これこそ日本人の美徳と感動しました。
今ではマナー教室で教わるようなことが、このお婆さんの時代には日常の所作だったんですね。

棚から落ちたビンが割れて散乱するコンビニできちんと列に並びレジ清算を待つ人達。
外国からの記事だと大規模災害の後には少なからず略奪暴動が報じられますが
ここ日本ではそんな事とは無縁なようです。

市がまるごと停電。
テレビで呼びかけるのは主に火の元の注意。戸締りに気を付けるようにと言いません。
明かりもなく通信手段も薄く、実は何が起きてもおかしくない状況にもかかわらずです。

何の問題もなく豊かな状況の時に良い人でいるのは簡単だと思います。
困難な状況に置かれた時にこそその人の本当のところが見えてくる。

千年に一度?起きるか起きないかの世界的に見ても数少ない大災害
そんな中で自分を見失わずに黙々と生活する人々。
日本人の美徳と誇りと力強さを見た気がしました。
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Author:言の葉IS
みちのく秋田在住。
座右の銘{往く言葉が美しければ 還る言葉も美しい}
日常の小さな出来事を綴ります。

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